MICHAEL RIKIO MING HEE HO
" my dad always told me that at the end of the day is night "
OCTOBER 18 - NOVEMBER 3, 2024
マイケル・リキオ・ミング・ヒー・ホーの作品は、一見シンプルに見えますが、じっくりと向き合うことで、その奥深さが少しずつ広がります。まるで噛めば噛むほど味わいが増すスルメのように、見るたびに新たな発見があり、作品との対話が深まるのです。彼は現代社会の中で私たちが見過ごしてしまう不安や感情に光を当て、日常の中に潜む複雑な感情や矛盾をそっと浮かび上がらせます。
彼の作品には、だまし絵(トロンプ・ルイユ)を取り入れた変形キャンバスが使われています。遠くから見ると立体的に見えますが、近付くとそれが2Dであることに気づきます。この視覚的なトリックは単なる効果にとどまらず、ホー自身が感じるアイデンティティの揺らぎや、私たちが抱える孤独感、不安定さを象徴しています。また、彼はSNSやインターネットミームから引用したフレーズを複数のフォントで描き、異なる感情やトーンを巧みに表します。作品《SLOW MORNINGS》では、異なるフォントが複数の人物の声を想起させ、文字の持つ機能を活かすことで、視覚的なリズムと深みを生み出しています。さらに、展示空間全体に目を向けると、キャンバス同士が対話をしているかのようにも見えます。
本展では、ゲームのキャラクターとしても馴染み深い「キノコ」のモチーフが登場します。ホーにとって日本文化への応答としてのキノコは、デフォルメされることでまるで人間のような姿にも見え、私たちに遊び心とともに深いメッセージを伝えます。ホーは、キノコを通じて、人間の曖昧さや不確実さ、そして現代社会の不安定さを表現しています。また、すべての作品は手描きで制作されており、デジタル時代においても手作業の温かみが残り、筆触のわずかな揺らぎが鑑賞者に人間的な感触を与えます。
展覧会のタイトル「my dad always told me that at the end of the day is night」は、一見詩的で深い意味を期待させますが、最終的には「夜になる」という当たり前の事実に帰着します。そこにはユーモアと皮肉、軽いオチが込められており、ホーの作品全体に通じる感覚が見事に表現されています。このシンプルな結末は、一見明白でありながらも、鑑賞者にわずかな空虚感や不条理さを残し、深く考えさせる余地を与えるのです。
ローレンス・ウェイナーやジェニー・ホルツァーといったコンセプチュアルアーティストの影響を受けつつも、ホーは独自の内面的で詩的なスタイルを確立しています。作品を一度見ただけでは全貌を捉えきれないかもしれませんが、何度も向き合うことで隠された感情やメッセージが少しずつ浮かび上がってくるでしょう。じっくりと向き合い、作品に込められた深みを味わってみてください。
キュレーション:新井 まる(ARTalk代表)
「私は自然の生々しさからあまりにも切り離されているように感じています。一面に広がる景色や雄大な眺望がとても恋しいです。ですが自然は、特に生の自然は、空虚に感じられることもあります。私はこれらの絵の中でより小さな生物に焦点を当てることについて考え始めました。花が思い浮かびましたが、花も私にとっては空虚に感じられました。キノコというものは、しかし奇妙なものです。キノコは植物でも動物でもなく、特定の環境下でしか育ちませんし、すぐに死んでしまいます。見た目も変で、まるで頭と体があるかのようです。キノコは人をよく惑わします—薬になったり、美味しかったり、ただ人を殺すだけの場合もあるのですから。キノコは私の短くて素朴な小詩篇の主題や背景としては最適でした。
最近、良い意味で自分の人生についてよく考えます。ある種の、新しい内なる平和を感じています。自己検閲をすることが減りました。好きなものを制作し、書くことが増え、どういうわけかそれらすべてがつながっています。それこそがこれらの絵のコンセプトです。」
-マイケル・リキオ・ミング・ヒー・ホー